[映画]薬指の標本
観て来ました、ディアーヌ・ベルトラン監督の「薬指の標本」。
オープニングの試験管のアップや、サイダー工場のベルトコンベアを流れていくサイダー壜。液体の中で揺れる泡がスクリーンの上ではじける様子……、つい、自分のブログ左上の画像を思い出してしまいました(笑)。光、色彩、質感、衣装、すべてがとても美しく、映画館の大きな画面で見ることができて良かったです。めいっぱい官能的なシーンは、朝っぱらから(朝一番の回を観たので)「わ、わー(鼻血)」でしたけど(^^;;;)。
ベス・ギボンズの歌や、遠い部屋から響いてくるピアノの音なども、情感をじわじわ刺激してくれました。サントラがもしあったら欲しいですが、今のところ無いのかな?
監督は小川洋子の原作小説を深く読み込み、さらなる広がりや肉付けを加えていました。原作には無く、監督が独自に付け加えたのが、標本室の事務員を務める主人公のイリスが、港で働く男と安宿をルームシェアをするという設定。昼間働くイリスと、夜間働く男は部屋を同時に使うことはないのですが、部屋に残された互いの衣服や、持ち物などを通じて徐々に互いの存在を意識し始めます。朝イリスが出勤し、男が部屋に戻る時すれ違ったりするうちに、シェアしている相手があの人だ…と互いに気付くようになる過程が密やかで、良かったです。このエピソードを加えることで、他の男性という選択肢もあったけれども(港の男、かなりの男前~)、あえてイリスは標本技師に自らの意志で囚われていったということが強調されています。
唯一、難を言えば、原作では主人公が和文タイプの活字盤の中身を床にぶちまけてしまい、標本技師が凝視する中、夜通しかけて拾うシーン。アルファベットのお国ではそんなに大量の活字をぶちまけるというシチュエーションが作りにくかったのか、なぜか中国人が標本化してほしいと持ち込んだ麻雀セットをぶちまけたことになってました。日本人の私の感覚としては、麻雀はこの映画に似合わないのではないかと(苦笑)。しかも、いくら全部ぶちまけてしまったって、拾うのに一晩もかからないでしょ!と思ってしまうじゃないですか。そこだけ惜しかったです。たしかに、床にはいつくばる若き美女と、一切手伝わずに凝視する白衣の男っていうのは、妖しいムード満点ですけどねぇ。。。
ところで、この標本室で作られる標本は、普通の標本ではありません。火事になった自分の家の焼け跡に生えていたキノコ、別れた恋人が作曲してくれた曲、飼っていた小鳥の骨。「多くの人は自分から遠ざけたい物を標本にする。」依頼人は、繰り返し思い出し、懐かしむためではなく、封じ込め、分離し、完結させるために品物を持ってくるのです。
「標本を必要としない人間なんていないさ」と、技師は言います。ミステリアスな技師の魅力に囚われていったイリスは、以前サイダー工場で働いていたときに欠けてしまった薬指を標本にしてもらうため、標本技術室へと踏み込んでいくのですが……。
最初は、この「標本」というのがピンとこなかったのですが、だんだん分かってきたような気がします。自分にとって大きな意味を持っているけれども、抱えているとしんどくなるもの。捨ててしまうことはできないけれど、遠ざけて封印しておけば、生きるのが少しは楽になるのではないかと思えるもの。皆さんには何かありますか(笑)?
長年生きていると、そういう物ってどんどん増えてきているような気もしますが(45リットルごみ袋が満杯になったらどうしよう? 苦笑)、あえて一つ選ぶなら。
私は両耳のピアス・ホールでしょうか。自分の中に開けられた、「自分ではない」部分。
どうかこれを標本にして下さい。
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